2014年6月9日月曜日

「マイナス×マイナス」、現象が消えるとき、拠り所は法則


負の数×負の数=正の数 を納得するために

まえがき
ここでは,負×負=正を納得してもらう一つの方法を紹介いたします.
数学でよく使われる証明ではないところが,面白いかもしれません.
証明ではなく,納得です.特にシュタイナー教育特有の方法ではありませんが、

目に見える現象に頼ることができなくなったときに、
そこにある法則を頼りに先に進む

という認識上の重要な問題を体験する機会になります。

九九表から出発

まず,自然数の九九表を作ります.これは何の問題もなく作れるはずです.
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九九表を作ったら,それを負の数にまで拡張した表をつくり,0の段の数字を記入します. しかし,負の数にかかわる欄は空白のままにしておきます.

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4
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ここで,生徒に課題を与えます.
0の段よりも小さな数,つまり負の数の九九がどうなるかを調べてみよう.
0のところには壁があって,それより小さな数の九九は少し難しいかもしれない. そうした困難にぶつかったときに,数学でよく使う手がある.
それは,今までわかっていることの中から法則を見つけ出し,その法則を頼りに新しい世界に一歩踏み出す、というやり方.
たとえば,2×(-1)を考えてみよう.
2×  5 =10
2×  4 = 8
2×  3 = 6
2×  2 = 4
2×  1 = 2
2×  0 = 0
2×(-1)= ?

掛ける数は右から左に行くにしたがい,5から1ずつ小さくなっている. それに対応して掛け算の答えは10から2ずつ小さくなっている.
そう考えると,「?」の場所の数は自然にわかると思う. こんな風に法則を利用すると壁を乗り越えることができるんだ.
つまり,表の赤の欄がわかったことになる.

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-5
0


それじゃ,水色の欄がどうなるか,計算してみよう.
 いったん壁を越えてしまったら,あとはそんなに難しくなく,下のような表がやがてできるはずです。

まだ藤色の欄が空いているし、それを埋めるにはやはり、法則を頼りに壁を越えなくてはなりません。
法則を探すために,まず 下の表で,青色の欄をよく見ます.すると、 ここの法則はすぐに見つかるはずです.
上から下に行くにしたがって,数が1ずつ増えています

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斜めの法則

次に, 斜めに並んだ数にも法則があるかを調べます. 表の黄緑色の欄です. これを右上から左下にくだってくると次のような順番になっている.

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15,8,3, 0,-1,0,・・・

数だけを取り出すと,こうなっている.
この数の差を見て、さらに2段目に、たとえば、15からいくつ引くと8になるかを考えてみよう.
15, 8, 3,  0, -1, 0,   *
    -7  -5  -3  -1   +1    ? 

さらに、その間の関係を見ると、次のようになります.
    -7  -5  -3  -1   +1    ? 
       +2   +2  +2  +2   +2?
(高校数学ではお馴染みですが、数列を考えていく際にも、差分の差分を計算する手法はよく使われます。)

他の斜めの欄も調べてみると,これがどんな法則なのかわかるかもしれません.

補足

もちろん,左上から右下にかけての法則も取り上げることができます.
こちらの方が未知の欄がなく,法則の全貌が見えます. これを自分で発見してくれる生徒がいるかもしれません.
という訳で,九九の表からいくつかの法則がわかってきた. この法則を利用したら,薄紫の欄がどうなるか見当がつくかもしれないね.
ここまで来たら,教師は生徒に意地悪をします.
はい,じゃー今日はここまで.
(これは本来、意地悪ではなく、「体験を翌日に再度、意識化する」というシュタイナーがアドヴァイスしている、一つの教育的方法です。)

【翌日】

翌日の授業では,見つけた法則をまとめます.
  • 上から下に表を読むと,0の段では数が変化しない.
  • 上から下に表を読むと,0の段より右では一定の差で数が小さくなる.
  • 上から下に表を読むと,0の段より左では一定の差で数が大きくなる.
  • 右上から左下へと表を斜めに見ると,数は一旦減ってから途中で増え始める. しかし,その数の差をとり,さらにその差の差をとると,いつも一定の数になっている.
  • 左上から右下へと表を斜めに見ると,数は一旦増えてから途中で減り始める. しかし,その数の差をとり,さらにその差の差をとると,いつも一定の数になっている.
ここまでお膳立てをすれば,負×負=正 を自分たちの法則として見つけるのは容易なはずです. そして,「負×負=正」という法則を天下り的に教わるのではなく,自分たちで発見してしまったのですから,それを受け入れざるをえません. つまり,「なんで 負×負=正 になるの?」 と問う必要がなくなるのです.

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「負×負=正」を理解するのにこんな手間と時間をかける必要はないと考える方もいらっしゃるかもしれません. しかし,数学を学び始めた初期に,

具体物のイメージができない場合に,法則を助けにする

という数学の素晴らしい側面を生徒たちが体験できるのです.
たとえば,n次元空間における距離も,2次元で理解されたピタゴラスの法則をn次元に敷衍(ふえん)しています.
あるいは、シュタイナー教育の高学年教育の中では、植物学、動物学においても、「動物の目に見える姿から、目に見えない理念的な姿」を捉えることを目指して、自然を学びます。これは、必ずしも容易ではありませんが。

ですので、数学においてこの体験に時間をかけるのは,決して無駄ではないと私は考えています.


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