2015年3月15日日曜日

川村記念美術館のレンブラント

■レンブラントを買うなんて

千葉県佐倉市にある川村記念美術館には「マーク・ロスコの部屋」という特筆すべき展示がありますが、他にも素晴らしい作品が展示されています。その一つが、このレンブラントです。まず、購入されたレンブラントの作品が日本に存在する、という事実が驚きです。19世紀の印象派の絵は売買されることもありますが、17世紀のレンブラントの作品が動くことはまずありません。上野の国立西洋美術館ですら所蔵しているのは、彼のエッチングだけなはずです。

■「つば広の帽子の男」(1635)レンブラント29歳の作品


この作品では、人物の優しくも力強い視線が非常に印象的です。この視線にこの人物の、聡明さ、誠実さ、温和さが現れているように見えます。そして、こうした印象は、画面の中で絵画的にレンブラントが創り出したものです。つまり、作品にふさわしい印象を作り出すために、色彩、明暗、構図、モチーフ等々に秩序を与えていきます。そうした点を少し詳しく見ていきましょう。

▲二つの光…レンブラントの手法(おそらく彼の創案)

レンブラントは多くの作品で二つの光の位置関係によって、絵画の中にドラマを作り出しています。この事実は、画集をめくっていただければ、どなたにも納得していただけるはずですが、典型的なのはミュンヘンに展示されているキリストの磔刑と復活に関連する5点の連作です。

  1. 処刑前のキリスト
  2. 死の直後のキリスト
  3. 埋葬されるキリスト
  4. 復活するキリスト(画面四時方向にぼんやりと描かれている)
  5. 昇天するキリス

処刑前では肉体そのものが輝いていますが、埋葬では復活を予感させる光が描かれ、復活では光の主体は身体ではなく、天使の側にあります。つまり、二つの光の関連性でドラマを演出しているのです。

▲「つば広の帽子の男」における二つの光

この絵の明るい部分は、人物の右頬から右肩の襟にかけて、並びに人物の背後にある壁の部分です。この明るい部分に着目しますと、背後から前方やや上への動きが感じられるはずです。そして、その動きがこの人物の視線の方向とおよそ一致することが分かるはずです。

▲つばの形

帽子のつばは画面右側では波打っていて、しかも幅狭く描かれ、画面左では膨らんだ形として伸びやかに広がっています。この形そのものに、私たちはどのような動きを感じるでしょうか。右側は萎んでいくようであり、左側は膨らんでいくようです。ですから、この形に私たちの感情を乗せて動きますと、画面右から左に向かっての動きを感じ取れるはずです。

▲襟のひだ

幾何学的に100%ある位置を指し示すわけではありませんが、主なひだの方向を、直線としてではなく動きの方向で延長すると、そのほとんどが、人物の右目領域に集まります。

つまりこの作品では、人物の右目を中心に、画面後方右側から画面手前への動きが作り出され、それが人物の視線の持つ印象へと変るのです。

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